【山櫻、備前発条、エコワークスの社長が鼎談】中堅・中小企業の脱炭素経営、再エネ100宣言で本気度を示す

(左から)株式会社山櫻 代表取締役社長 市瀬 豊和氏、備前発条株式会社 代表取締役社長 山根 教代氏、
エコワークス株式会社 代表取締役社長/一般社団法人再エネ100宣言 RE Action協議会 理事 小山 貴史氏

2050年にカーボンニュートラルを達成するためには、中小企業を含む全ての事業者による脱炭素への対応が不可欠だ。
「再エネ100宣言 RE Action(アールイーアクション)」に参加し、率先して脱炭素経営を実践する企業の社長が取り組みと決意を語った。

ピンチも理念もチャンスにできる

―脱炭素に取り組み始めたきっかけと再エネ導入状況を教えてください。

山根:備前発条は1949年に創業し、自動車の板金部品の開発・製造を中心に手掛けています。私が社長に就任した直後に西日本豪雨があり、岡山市の本社工場が一部被害を受けたのですが、そこにコロナ禍が続き、当時は経営的に厳しい状態でした。その頃、アップル社が2030年までにサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを実現すると宣言し、同社の取引先に対して再エネ電力の使用を義務付けることを知りました。当社は取引先ではないものの、このままでは会社が生き残れないという危機感を覚え、脱炭素の勉強を始めました。今では、社内でCO2排出量を算定することが習慣になり、設計の段階から軽量化などによるCO2排出削減の目標を立てて、製品を提案できるようになっています。再エネ導入も進めており、直近では、2026年3月を目途に本社工場の自家消費型太陽光発電設備導入を予定しています。

市瀬:山櫻は東京の銀座(木挽町)で1931年に創業し、名刺や封筒などオフィス用紙製品の製造を軸に事業を展開しています。当社は1990年頃から再生紙を扱っており、全国で初めて名刺台紙に古紙を採用しました。環境経営を深く考えるようになったのは、2008年に製紙業界の古紙配合率偽装問題が発覚し、当社も対応を迫られたことがきっかけです。現在は、2,700種類の規格品のうち、95%を2025年度中にエシカル対応製品にすることを目標としており、既に89%の製品が対応済みとなっています。当社にとって気候変動対策は環境配慮やエシカル対応の一環であり、当然のこととして取り組んでいます。工場と物流センターで使用する電力はグリーン電力証書で100%再エネ化し、2024年度の全体の再エネ率は79.3%となりました。

小山:エコワークスは2004年に福岡市で創業した工務店です。当時はシックハウスが問題となっており、健康な住まいと建築を目指していました。2007年に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の国内シンポジウムに参加する機会があったのですが、「気候の安定化に向けて直ちに行動を!」という科学者からの緊急メッセージを見て、住宅業界で省エネや脱炭素化に取り組むことがビジネスチャンスになると気付きました。それ以来、環境配慮や気候変動対策に全力を傾けるようになり、使用電力を再エネに切り替え、2020年から6年連続で再エネ率100%を達成しています。

山櫻の市瀬社長

脱炭素経営は重要なビジネス戦略

―脱炭素の取り組みや再エネ100宣言 RE Actionへの参加はどのようなメリットをもたらしていますか。

小山:環境やエネルギーのことを考えた家づくりを進める過程で、「自信をもって子どもたちに引き継げる家ができた」という施主の声が増え、顧客満足度が高まっていると実感しています。

市瀬:世の中の流れもあり、小規模事業者や個人ユーザーの中には、多少価格が高くてもカーボンニュートラル製品やSDGsに貢献する製品を選ぶ方が徐々に増えています。最近では、東京商工会議所の1,000人規模の会議で資料と一緒に配布された封筒が当社のカーボンニュートラルマーク入り製品だったので、大変嬉しく思いました。

山根:当社は岡山県の企業で初めて再エネ100宣言 RE Action(以下、RE Action)に参加したのですが、脱炭素経営について地元紙や雑誌で取り上げられたり、県の脱炭素セミナーで講演したりする機会が増え、以前よりも認知度が上がっています。若い方は環境意識が高いので、メディアを通じて脱炭素経営について発信することで、当社に興味を持ってくれる人が増え、人材採用においても成果が出ています。

市瀬、小山:当社も同じです。脱炭素経営の取り組みが、対外的にも社内でもブランディングにつながっています。

小山:再エネ導入のコストを問題だと考える製造業者は多いのですが、当社が脱炭素経営を進めるにあたって、困難はほとんどありませんでした。むしろ、新電力の市場連動型再エネメニューに切り替えたことで電気代が下がりましたし、福岡本社に設置している自家消費型太陽光発電設備も約10年で初期費用を回収できる見込みです。また、行政も建築業界の脱炭素化を後押ししており、2028年度を目途に建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価を促進する制度の導入に向け、検討が進められています。いよいよ中堅・中小企業においても、脱炭素の取り組みが不可欠になっているのではないでしょうか。

備前発条の山根社長

再エネ100宣言による意思表示

―再エネ100宣言 RE Actionに参加する意義はどこにあると考えますか。

山根:東京と比較すると、地元では脱炭素への関心がまだ低いと感じますが、まず、RE Actionに参加して、自らの目標を宣言することが大事です。太陽光発電や蓄電池を増やそうとしても、個社の活動には限界がありますが、なぜ脱炭素の取り組みが必要なのかを地道に伝えることで、一人でも多くの人の行動変容を促し、地域で協力していきたいと考えています。

市瀬:長年、環境・脱炭素経営に取り組んできて、社員が納得して業務にあたることは非常に重要だと思っています。脱炭素の目標を掲げて取り組むだけでは、ともすると内輪の話に留まりますが、RE Actionに参加して対外的に実績を公開することは、企業としてカーボンニュートラルを目指すという意思の表明になります。これは社内外へ向けて企業の本気度を示す大切なメッセージでもあります。

小山:変化への対応は経営の基本ですが、恐らくこの先、最大の社会的変化は気候変動対策であり、脱炭素社会への転換になるでしょう。国は2050年カーボンニュートラルを掲げ、再エネを主力電源として位置付けており、社会制度そのものが脱炭素の取り組みを応援するようになっています。このような状況を的確に捉えることは、先行者利益にもつながります。多くの中堅・中小企業に脱炭素経営を考えていただきたいですし、その際に有効なのが再エネ導入であり、プラットフォームとなるRE Actionへの参加だと思っています。

エコワークスの小山社長

※本記事は季刊『環境ビジネス』 2026年冬号に掲載されたものです。許可を得て転載しています。

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